想うこと4 経済とは何か(24)近代における経済システムの制御の試み
経済システムを制御することは極めて困難であることを話しましたが、近代の歴史では絶えずそれを安定に制御しようという試みがなされてきました。
アダムスミスは「国家の統制(経済システムの人為的制御)をしないことでむしろよい制御がなされる」といういわゆる自由主義経済を唱えたのですが、それをまともに実行した結果、不況や極端な所得格差が生まれるという矛盾が生ずることが明らかになってきました。
その反省からマルクスとケインズという二人の人物による新たな発想が生まれてきました。
マルクスの発想は「経済システムを完全に国家統制の元に置くことにより完全な制御を達成する」というものです。特に経済理念としては「一人は万人のために万人は一人のために、そして能力に応じて働き、必要によって得る」共産主義という理想を掲げました。これは特に自由主義経済の中で極端な富の偏在が生じるのに対して、万人が仕事を得、かつ生産物の享受を得る社会を作ろうという考えから生まれています。
結果的にマルクスの考え方は実現し得ていないのですが、その困難である根源的な理由の一つに「需給調整」の困難さがあります。国家統制経済による需給調整というのはそれぞれの産品について需要を予測して生産することですが、人の必要とする産品の種類は途方もなく多く、また原料が一次産業で生み出され、加工され、供給するまでのプロセスというのは極めて複雑であり、人知では把握し切れないものです。
ケインズは基本的な需給調整は自由市場にまかせるが、景気変動による失業者の増大に対しては政府が公共事業等国家に有用な需要を生みだし、その需要を満たすべく新たな雇用を作り出すという考え方を打ち出し、理論化しました。この考え方は「総需要管理」といわれているようです。
実際にはいかなる時代においても国民の全員に仕事が割ふられるようにするというのは国家の基本的な役目であり、古代からその努力が続けられてきたわけです。
その意味では「総需要管理」という考え方がケインズ個人の独創とは言えないでしょう。
ケインズの独創性は古代からあるそのような考え方を明確化し、理論化し、国家の経済施策として実用できる形にしたことだと思います。
経済システムの制御という点においてマルクスとケインズの大きな相違は「マルクスが経済システムの構成要素の中核である生産手段(土地、工場、機械器具、輸送手段)等の一切を国家の所有とし、それを統制できるようにしたのに対し、ケインズは生産手段は原則として民間の手に委ねつつ、景気の波の中で多数の失業者が出ないように国家事業等で対応する」ということでしょう。
一見するとマルクスのように生産手段を国有としてしまった方が経済システムの制御は容易になるように見えます。しかし国家が巨大であり、多種の民族、気候、文化等を抱えていると人知では読みきれない変動があり、国家がそれを予測し、未然に調整するのは非常に困難です。
(小国ではたとえばキューバのようにマルクスの考え方が機能しているように見える国もあります。)
国家がこのような困難な需給調整をする代わりにそれを自由市場に任せるというのが自由主義経済の考え方です。しかし、自由市場も完全な需給調整が出来るものでないことは最近の経済状況をみれば瞭然です。自由市場による需給調整は国家の計画による需給調整よりはまし、と言える程度です。
自由市場の大きな問題は需給バランスの変動による失業者の発生です。ケインズは自由市場で制御しきれない需給バランスの変動分を国家事業で調整し、失業者をなくすという考え方を示したと言えるでしょう。
by masaaki.nagakura | 2009-06-02 13:07 | 想うこと
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