想うこと4 経済とは何か(16)経済と戦争
悲しいことですが、これまでの歴史を見ると経済と戦争は相当深い関係があるようです。
第二次世界大戦はイタリアにおけるファシスト党、ドイツにおけるナチス、日本における軍部の台頭により引き起こされていったのですが、いずれもその背景には経済的困窮がありました。
第二次大戦の先立って世界恐慌があり、米国はニューディール政策等により乗り越えましたが、イタリア、ドイツ、日本はその影響を世界恐慌の始まった米国以上に大きな打撃を受けた状態でした。特にドイツは第一次大戦のときに負った負債が大きな重荷になっていました。
これらの経済的困窮が国民の多くに絶望感を抱かしめ、そこからの抜け道として戦争への道を走らせたとも考えられます。第二次大戦の要因としては経済的困窮だけでなく、当時の世界情勢、特に植民地を持つ国々に対する、植民地を持たないイタリア、ドイツ、日本などの不当感などが重なり、これらの国民に戦争を正当化させたのだと思います。
第二次大戦については次のようなプロセスをたどったように思います。
経済的な困窮⇒その困窮を他国の責任にする(不当感)⇒具体的な敵を見出す⇒戦争
現在の世界同時不況は1930年代の世界恐慌を思わせるものがあります。
現在オバマさんの採ろうとしている経済回復策は当時のアメリカの民主党のルーズベルトのニューディール政策を思い出させます。
今後アメリカの経済がどのように進展するか、また他の各国の経済がどうかは未知数ではありますが、再び戦争への道が開かれないように注意する必要はあると思います。

現在のところ、第二次大戦以前のような戦争へ向けての動きはないように見えます。
現在の第二次大戦の前との相違は国家間に「植民地を持つ国と持たざる国」というような明確な差別がなく、「あの国は不当である」といった不当感を抱かせるような大きな要因がないということです。
また国家間の貿易による相互依存関係が強くなり、戦争を引き起こすことにより、その相互依存関係が破壊されるという、経済的なデメリットが明らかであることが戦争を抑止する要因になっているでしょう。
もうひとつは国家間の人的交流や映画、マスコミの報道、インターネットによる情報のやりとり等により、国家を超えての相互理解が深まっていることも大きな戦争抑止の力でしょう。

しかし、気をつけなければならないのは更に不況が進行した場合の国民感情の変化です。
「現在国家相互間の大きな不当感はない」といいましたが、国境問題など小さな不当感は常に存在します。
多くの国民が経済的苦境に立たされた場合に、為政者がそのような不当感に火をつけ、戦争に引き込まれていくという可能性は否定できない、と思います。

経済的困窮において最も問題となるのは「失業者の増大」です。
そして国家はその国の法律がどうあろうと、国民に職を与えるという使命を負っています。それの出来ない国家は国家としての資格がないということになります。
また失業者の増大は国民の中に大きな不安を引き起こし、更に犯罪の増加に繋がります。
そのときに国家が[戦争」という誘惑に駆られる可能性があります。

戦争と言うのは最も手っ取り早く失業問題を解決する手段でも有り得る、と言うことに注意する必要があります。
非常に大きな失業人口を抱えてしまった場合にはそれに見合った大きな戦争を引き起こすことが、求められます。
大きな戦争を起こせば、兵員の徴収、兵器、船舶、自動車、通信機器、兵員のための物資の補給等そのためには一挙に莫大な労力が必要で、失業問題は一挙に解決されます。

そうは言っても国家が大きな戦争を引き起こすためには、その戦争を国民の大多数が理性面と心情面の双方で支持する状況が出てくる必要があります。理性面と言うのは「相手の国が不当であり、その戦争は正当である」と納得しえること、心情面と言うのは「この不当な状況から脱するために生命を賭しても闘わなければならない」とする昂揚感が高まることです。
日本のように忌むべき敗戦体験を持つ国においてはこのような状況を作り出すのは簡単ではないのですが、世界にはいろいろな国があり、どこかの国の政府が意図的に国民を戦争の方向に引っ張っていくことは有り得ることです。
否、日本においてもこのままの勢いで失業者が増大した場合には、戦争を求める過激な思想が発生し、それに世論が同調し、政府も止む無く、もしくはこれ幸いと戦争の方向に国民を引っ張っていくという事態が有り得ると考え、注意すべきと思います。

江戸時代やそれ以前には飢饉という問題がありました。
食べるものがないわけですから、その困難さは現在の不況と言う問題をはるかに超えるものだったと思います。
二宮尊徳は飢饉の年の一時期村の人たちを寺に集めて、食料を一日に一人どの程度と言うように決めて、婦人や子供はなるべく動かないようにさせ、体力のあるものに最小限必要な労働をさせて乗り切ったといわれます。
現在の不況というのは食べ物は全員にいきわたるだけあるわけで、失業が増えたといっても殆どの人は働ける状況にあります。問題は如何に仕事を配分したらよいのか、ということです。
このときあたり国家の最重要の責任は国民のそれぞれが現在と未来のために有益な仕事を出来るように配分することです。
戦争への道を避けるためにも、速やかに大胆な雇用の道を開くことが求められていると思います。
by masaaki.nagakura | 2009-02-02 13:03 | 想うこと
<< 想うこと4 経済とは何か(17... 想うこと4 経済とは何か(15... >>