オゾンことはじめ10 太古の海中のオゾン
太古には対流圏のオゾンの濃度が生命にとって非常に有害なほど高かったという話をしました。では海中の生命にはその影響はなかったのでしょうか?
対流圏のオゾンは当然海中にも溶け込むでしょう。

まず現在の海で考えてみます。
現在の海ではオゾンは海中に溶かしても、オゾンのままでとどまらず、海水に溶解している臭素イオン(Br-)と化学反応を起こして、臭素酸(HBrO3)や次亜臭素酸(HBrO)などに変わってしまうことが知られています。
現在の海水中の臭素イオンは0.0065%で一見少ないようですが、これはたった水深2cmの臭素イオンが海面上の対流圏の全てのオゾンと等モル反応(臭素イオン数=オゾン分子数 で反応)するほどの濃度です。(補足説明参照)
無論対流圏のオゾンの全てが海水に溶けるはずはないのですが、少なくも海面より海中に溶け込んだオゾンはすべてが、臭素酸(HBrO3)や次亜臭素酸(HBrO)などに変化してします、と考えて良さそうです。

太古の海ではどうだったのでしょうか? 同じように対流圏の空気から海に溶け込んだオゾンは全て臭素酸(HBrO3)や次亜臭素酸(HBrO)などに変化してしたのでしょうか。

ここで問題となるのは太古の海の臭素酸の濃度です。
海には塩素イオンやナトリウムイオンをはじめ各種のイオンが溶け込んでいます(補足説明の表参照)。
それらの組成は地球の歴史の中で変遷してきたと考えられていますが、その変遷の仕方には諸説があるようです。
(1)海水中のイオン濃度は海洋が出来た時から現在まで大きな変化はない。 
(2)海水中のイオン濃度は海洋が出来た時からある組成があり、それが徐々に増大してきた。
(3)海水中のイオン濃度はある時(6億年前?)に突然大きく増大した。

上記で(1)(2)の説によれば、生命誕生の時から海水中へのイオンの溶け込みはあった、という事で、恐らく臭素もあった、と考えられます。(3)の説にしても「ある時大幅に増大した」という事でその前にはイオンがなかったと言っているわけではありません。
生命誕生の時から臭素イオンが海中に存在したことを推定させるものとして臭素が生命の28番目の必須元素だという事です。次はWIKIPEDIAからの引用です。

WIKIPEDIAより
「機能は確認されていないが、アメリカ合衆国ヴァンダービルト大学のビリー・ハドソン博士らは、ミバエへの給餌実験で臭素を除いた餌を食べ続けたグループは死滅したが、通常通り臭素を含む餌を食べた対照グループは生き残ったことから、臭素が動物にとって28番目の必須元素であることを確認し、2014年に発表した」

上述のように現在の海に関して言えば海水中の臭素は溶け込んだオゾンの全てを臭素酸(HBrO3)や次亜臭素酸(HBrO)などに変化させるのに十分な量が存在します。太古の海では臭素イオンの濃度が小さく、海水中でオゾンと臭素酸、次亜臭素酸等が共存した時代があったかも知れません。

ところで海水中のそして臭素酸や次亜臭素酸は魚毒性があります。このことは「魚の養殖用の海水に殺菌の目的でオゾンガスを加えた結果、魚が死ぬことがある」という経験からわかってきたことのようです。現在では海水魚の養殖にオゾン殺菌を利用する場合には海水の殺菌の後に活性炭の層を通過させる場合が多いようです。それは海水中の臭素酸が、活性炭を通過することで臭素イオンに戻って無害になるためです。 
(なお、海老は臭素酸に比較的強いようで、海老の養殖用の海水を養殖池に引き込む前ににオゾンガスをバブリングし、そのまま活性炭も通過させずに養殖池に引き込んでいる例もあります。)

太古の海では対流圏のオゾン濃度が高く、したがって海の表面付近では臭素酸や次亜臭素酸の濃度も高く、魚たちにとっては嫌な場所だったかも知れません。

一方、魚介類が海水表面付近の臭素酸や次亜臭素酸の濃度の変化を季節の変化を知るためのシグナルとして認識していた(そして現在もしている)可能性があります。
これは地上の生命がオゾンの濃度の変化を季節のシグナルとして認識していた(そして現在もしている)可能性があるのと、同様です。

それを推定させる事実の一つは「アコヤガイ(真珠貝)の放卵促進に海水中へのオゾン曝露が有効である」という事です。 アコヤガイを養殖する海水中にオゾンをバブリングすると放卵が促進される、という事です。これは海水中に吹き込まれたオゾンから生成する臭素酸や次亜臭素酸が近々春が到来することをアコヤガイに告げるシグナル=環境ホルモンとして働いているという事です。無論これは仮説ですが、そのような可能性は十分あると思います。

(補足説明:海水の水深2cmまでの臭素イオンが海面上の対流圏全体のオゾンと等モルであることの説明
現在の海水のイオンと化学種の組成はWIKIPEDIAによれば次の表のようです。
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臭素イオンは質量で0.0065%です。これは1m3(約1トン)に65gの臭素イオンがあるという事です。
臭素の原子量は約80gですので65gは0.81モル(65÷80)に相当します。

一方対流圏の空気中のオゾン濃度は現状では0.03ppm程度でこれは1m3の空気中に0.03ccのオゾンという事です。1ccのオゾンは約2mgなので空気1m3中に0.06mgのオゾンがあります。オゾンの分子量は48gなので0.06mgは1.25×10のマイナス6乗モルです。

海中の臭素イオンと空気中のオゾンが等モルで反応すると、1m3の海水は650000m3の空気中のオゾンと反応することになります。ところで対流圏の最高部は11km上空と言われています。 それで海面の1平方メートルの面積の上方にある対流圏の空気の体積は11000m3となります。
650000m3の空気中のオゾンは1m3の海水中の臭素イオンと等モルですから、11000m3の空気中のオゾンは0.017m3(11000m3/650000)の海水中の臭素イオンと等モルです。
即ち水深0.017m≒2cmの深さの海水中の臭素イオンだけで海面上の対流圏のすべてのオゾンと等モルという事になります。)
by masaaki.nagakura | 2015-03-11 21:22 | オゾンことはじめ
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