ここで少し趣は変わるようですが、山岡鉄太郎(山岡鉄舟)の考え方と言うことに触れてみたいと思います。
よく知られているように鉄太郎は幕末は幕臣として、幕府に使え、勝海舟と共に、西郷隆盛等の率いる官軍と講和(江戸城の無血開城)を結ぶのに活躍し、明治維新の後は明治天皇の侍従としても活躍しました。 鉄太郎の考え方は勝部真長の「山岡鉄舟の武士道」という書に良く著されていると思います。 鉄太郎の考え方に着目するのは彼がまさに日本の近代化が始まろうとする時代と前近代との分水嶺に立っていて、過去(前近代)も、現在(近代化の出発点)も見ておりまた未来(近代化の結果)をも見通そうとしていた点にあります。 特に科学進歩が齎す結果については深い憂慮の思いを吐露しています。 もとより科学を否定しているわけではなく、科学が人間の欲望(鉄太郎は獣欲と呼んでいる)と結びつく結果、物質的偏重に陥り、道義的霊性が失われていくことについて憂慮しているわけです。 このような考えを示す一部を抜粋、引用します。 「科学の進歩をきたしたには原因がある。それは自由思想である。----さてその自由は抽象科学の研究と共に無制限に発達してきたのである。その結果は自由に種々の枝を分かつにいたったのである。利己心のごときはまさにこれである。家族制度などはかまわないのである。自己さえ自由であれば他を顧みないのであるから、祖先、父母、兄弟姉妹には、格別の重きを置かないのである。何事も自己を中心点として産出したものである。だから政治、法律、経済、道徳、その他諸般のこと、みな推論したところの権利の伸長物である。ここにおいて、みな人が自由の権利によって、自己を満足させる(ことが)利益であることを感じ、それより知的競争となり、科学的研究、物質的偏重を生じたのである。 それゆえに科学的物質の大進歩をなしたことについては、一文明(すなわち枝葉の文明)として感謝するとともに慨嘆するというわけである。」 これは明治20年に武士道についての講和の中で語られたことです。 このような考え方は第二次大戦後の教育を受けた我々などからは「これは自由主義や科学思想の否定であり、封建道徳からくる考え方である」とも見れるし、恐らく当時にあっても「進歩的な」人たちからは守旧派の寝言のようにみなされたとも想像されます。 しかし科学技術の上に立つ産業中心主義がさまざまな矛盾に陥り、多くの人々が人々が未来への希望を見失ってきている現在を顧みたら、この言葉の中に重要な警告が潜んでいるかも知れないと、この言葉の意味を再度考えてみるべきでないかと思います。 岡倉鉄太郎は武士道を語るにおいて各所で「無我」ということを言っています。 たとえば「父母の恩」を語る中には次があります。 「老幼男女の区別なく、各自で発現本所にたちかえってみるがよい。各自の身体はみなこれは父母の遺体であって、しいて我なるものはない。われわれの身体はみなすべて父母の骨肉の分子である。今もしこれを父母に返還してしまったら、更に一物も我というべきもののある道理がない。このように道理をわきまえてくれば、わが身体は全部我のものでないことが明瞭でないか。」 一方近代の法律は「自由意思をもつ個人の存在」を前提しているようです。これはそういう前提を置かなければ法律そのものの正当性が保持しえないためかも知れないのですが、私はそのような考え方に自然でない無理があり、それが様々な問題を引き起こしているように思っています。
by masaaki.nagakura
| 2011-08-01 13:01
| 想うこと
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