想うこと6 福島原子力発電所事故を考える (19)放射性物質漏洩経路等に関する不明点
私が原子力関連企業(三菱原子力工業、三菱重工業)に27年間勤務したこともあって今回の原子力発電所事故についての解説を求められる事があります。
最近私の在住する埼玉県小川町にある小川高校の松本先生の依頼があり、4月30日に東松山のある集会所で福島第一原子力発電所の事故についての解説をすることになりました。

そこで今回の事故の状況について更に詳しく調べようとして、特に福島第一原子力発電所のBWR(沸騰水型軽水炉)の構造と配管系統構成をネットでもって調べています。

因みに三菱関係の建設してきた原子力発電所はPWR(加圧水型軽水炉)です。
だからと言って私はPWRについてそれほど詳しいわけではありません。私が原子力関連企業で27年間にやってきたことは主に「ウラン濃縮、放射線計測、放射性廃棄物処理・処分、核融合炉の燃料であるトリチウム取扱技術の研究開発」です。 その他原子力発電所の定期検査で核燃料検査(使用済燃料一時保管プールにおかれた燃料集合体の健全性に関する検査)にも数回従事し、またスリーマイルアイランドの事故の時は水素爆発の可能性に関する評価なども行いました。しかしPWRそのものについて深く突っ込んだ経験はありません。

ですから今回の事故がもしPWRにおいて起こったとしてもやはりその構造や配管系統構成についてはネットで調べるしかなかったと思います。

特に配管系統構成について調べる必要があるのはどのような経路を辿って放射性物質が大気や建屋内に放出しているかを知ることが、今後の対策を考える上で重要だからです。

次の資料は特に系統構成についてのある程度の詳細が掲載されています。

資料1 福島第一原子力発電所における事故の経緯と今後の可能性について
  :平成23年4月10日東京大学大学院工学系研究科教授9人連名での公開資料

資料2 平成21年度地震時レベル2PSAの解析(BWR)
  :平成22 年10 月独立行政法人 原子力安全基盤機構発行

特に資料1は今回の事故の経緯や放射性物質の漏洩経路についても検討されてる点で有用です。

それでも現状ではどうしても不明な点というか不思議な点がいくつかあります。

不明点1 1、3号機の水素爆発が起こるまでに水素が圧力容器から原子力建屋への漏洩経路
説明:圧力容器内の水位の低下を防ぐため水蒸気の出口配管部に設けられた逃がし弁(主蒸気逃がし安全弁)を開放し水素と水蒸気が格納容器に逃がし、そのあと格納容器内の圧力が高まったために格納容器から外気に通じるベント(ドライベント)を開放して水素と水蒸気を放出した、と考えられるが、そのベントが格納容器から排気筒(煙突のようなもの)に通じているならば、原子炉建屋内にあの水素爆発を起こすだけの水素は放出されなかったはずである。とする水素および水蒸気はベントより直接原子炉建屋に放出された事になる。
入手した配管系統図の中にベントとそれに結合する配管が記載されたものがないこともあり、詳細がつかめない。

不明点2 1,2,3号機の現状における水蒸気の圧力容器から大気への放出経路
説明:現在も水蒸気(ヨウ素、セシウム等を幾分伴う)が格納容器のベントから大気に放出されていると考えられるが、排気筒を通しているのか、否かが不明である。それに可能であれば圧力容器内の気体を止むを得ず大気に放出する場合には圧力抑制室(格納容器の下部を取り巻くドーナツ状の室)の水をくぐらせてヨウ素等をある程度除去して放出するのがベターであるはずだが、それがなされない理由は何かが不明である。

不明点3 1,2,3号機において原子炉建屋、タービン建屋に蓄積している放射性物質含有水の漏洩経路
説明:全体で6万トンと言われる建屋内に蓄積している放射性物質含有水の一部は津波によると考えられるが津波の海水は放射性物質を含まず、少なくも一部は圧力容器から来ている。また圧力容器には冷却のため位水を注入せざるを得ず、その注入水の一部は建屋に流出する。その流出経路はどこかが不明である。
格納容器、圧力抑制室の一部に漏えい個所があるのか、あるいは圧力容器、格納容器、圧力抑制室のいずれかに結合する配管の一部に漏えい個所があるのか不明である。

不明点4 2号機の復水器に蓄積していた水の経路
説明;2号機の復水器に水を入れようとしたら既にかなり入っていたという。その水の経路はどこからか?
原子炉の停止時には圧力容器からタービンおよび復水器に通じる主蒸気配管は主蒸気隔離弁により閉鎖され、圧力容器内の水はタービンや復水器に行かないはずである。しかし、主蒸気配管以外に圧力容器に通じる配管は無いようであり、とすれば主蒸気隔離弁が損傷し、閉鎖能力を喪失していたことが考えられる。
(圧力容器内の圧力が設計値オーバーとなり、その時に主蒸気隔離弁が閉鎖機能を喪失した可能性がないか?)

不明点5 冷却水の注入経路
説明:圧力容器に注入されている冷却水の注入経路が不明である。上記東京大学の資料には2号機の場合消火器ラインから注入とあるが、それがどの部分か不明である。

以上5点が私にとっての不明点です。
まだ誰にもわかっていないこともあるかもしれませんが、どなたかわかる方がおられたら教えてください。
by masaaki.nagakura | 2011-04-17 21:40 | 想うこと
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