想うこと6 福島原子力発電所事故を考える (15)放射性廃液の蒸発濃縮方法の実現可能性
福島第一原子力発電所で6万トン滞留しているといわれる高濃度の放射性物質を含有した水を保管するためにタンクやメガフロート、船などを次々調達し、あるいは建設しても、今度はその保管場所の周辺の放射能が高まり、人の近づけない領域がますます増えつづけることになります。
どうしてもその水から放射性物質を除去して、放射性物質の濃度を海洋放出の許容される限界まで下げて放出し、除去された放射性物質は極力減容して、狭い範囲に閉じ込める工夫が必要となります。
水の蒸発濃縮はその一つの方法です。次の図はその方法の概念図(1例)です。
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蒸発濃縮によって、全ての放射性物質が除去されるわけでなく揮発性の放射性物質の一部は残りますので、蒸発濃縮だけで水中の放射性物質が許容濃度までさがるわけにはいかず、海洋放出のためには追加の除去が必要でしょうが、相当程度の除去効果と減容効果が期待できます。

蒸発濃縮というのは水の蒸発に要するエネルギーが大きく、現実的でない、という意見もあります。
実際にはどうなのかここで検討してみます。
1kgの水を蒸発させようとしてたら、元の温度を20℃とし、100℃まで温度を上げるのに80kcalで蒸発熱540kcalを加えて620kcalです。 1トンの水ならその1000倍の62万kcal必要です。
現在福島第一原子力発電所にあるとされる6万トンの水を蒸発させるとしたら、372億kcalの熱が必要です。これを電力でまかなうと約4300万KWHの電力になります。 これは出力100万kWの原子力発電所の電力を全て使って43時間かかることになります。実際にはそんな大規模な蒸発設備の建設は短期間には無理でしょう。仮に出力1万KWの蒸発設備を用意できたとすると4300時間で約180日かかることになります。
これが現実的かどうか、現状では私には判断できかねますが、不可能な範囲ではないように思えます。

出来れば省エネルギーを図り、より速やかに蒸発処理を達成できることが望ましいでしょう。
原理的には水を蒸発させて出来た水蒸気を水に戻すときに発生する潜熱(蒸発熱に等しい)によりこれから蒸発させようとする水に与える事により87%(540kcal÷620kcal)の熱が回収されます。
上記図はそのような回収を意図したものですが、残念ながらまだアイデア段階です。

以上の検討で蒸発濃縮は必ずしも非現実的な選択ではないと思いました。
また熱回収により省エネルギーを図る工夫など多く人の知恵を集めて検討する事も意味あると思います。

補遺:若干奇抜な発想ですが、現在の福島第一原子力発電所の1,2,3号機をそのまま蒸発濃縮に利用するということも考えられます。
現在1時間あたりの注水量は1号機で6トン、2号機で8トン、3号機で7トンという報告があります。
これらの注水量の大部分は1度水蒸気になっていると考えられます。合計で1時間21トンが水蒸気化されているとすると6万トンの水を処理するのに120日と言う事になります。 実際にはこれより長くかかるでしょうが、上記本文の1万kWで180日と言うのと同程度の処理能力は持てそうな気がします。
ただし現状の6万トンの水には塩分が含まれている可能性が多分にあり、その場合には原子炉圧力容器内の水の一部を抜きながら蒸発処理をする等の手段を考えておく必要があるでしょう。
by masaaki.nagakura | 2011-04-06 09:39 | 想うこと
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